舞台を生み出す立役者 クリエイターに迫る。「オリエント急行殺人事件l」編

ちょっと、ここだけバナシ。


プロデューサー 三浦沙奈弓 さん 編

カフェで話しているようなリラックスした雰囲気で、作品を手掛けるクリエイターの方々から話を聞かせてもらう、“ちょっとここだけバナシ。“
今回のプラスな話を届けてくれるは、2020年12月上演の舞台版『オリエント急行殺人事件』のプロデュースを手掛けた三浦沙奈弓プロデューサー
これまでに、舞台『野球』(19)舞台『不機嫌な女神たち プラス1』(19)舞台『時子さんのトキ』(20)など、幅広いジャンルの作品を手掛ける三浦さん。2019年に満を持して日本初公演の幕を上げた『オリエント急行殺人事件』(以下『オリエント急行』)の上演のきっかけや、三浦さんから見る演出家・河原雅彦さんの奇才。そして、絶賛稽古中のキャストについてまで、幅広くお話を伺いました。是非、ご覧ください!

まず、『オリエント急行殺人事件』を日本で上演しようと思ったきっかけは?

「アガサ・クリスティのミステリー小説『オリエント急行殺人事件』は読んだことはなくて、何となく知っていたんですけど、2017年にケネス・ブラナー主演の『オリエント急行殺人事件』の映画を観た時、すごく豪華で魅力的なキャストが出演していて、しかも、ひとつの密室の中で起こる出来事を映画にしているところが、実はとても舞台に向いていると思ったんです」

確かに列車の中が舞台ですもんね。

「『オリエント急行』は古典なので、派手なトリックや犯人を見つけることの快感に対してのエンタテインメントではなく、どちらかというと人間ドラマに重きを置いた作品なんですよね。80年以上前に書かれた作品ですけど現代に通じる普遍性があって、これを舞台でできたら素敵だなと思ったことがきっかけでした」

そこで河原雅彦さんに演出をお願いされたんですね。

「列車の中で起きた殺人事件なのでとことん地味なんですよね(笑)。それをそのまま地味にしてしまうとエンタメの要素がなくて面白くないなと思ったんですよね。そこでどうしようかと考えた時に、元々私が河原さんの作品がすごく好きだったこともあって、河原さんの持っているロックな感じやアバンギャルドな感じと、『オリエント急行』の古典といった異なる世界観が組み合わさった時にすごく面白くなるんじゃないかなと思って、是非にとご依頼しました」

『オリエント急行殺人事件』×演出家・河原雅彦

河原さんとは、この時初めてご一緒されたんですか?

「そうなんですよ」

実際にご一緒して、河原さんが「奇才」と呼ばれる所以はどのあたりにあると感じられましたか?

「河原さんの演出は、音楽や映像の使い方がとてもかっこよくて、装置や衣裳の色合いも派手でロックな独特な世界観を作っているんですけど、お芝居に対してすごく緻密で繊細なんですよね。見える部分と内側から作り上げていく部分を緻密に作り上げていかれるので、独自の世界観とお芝居が共鳴するんだと思います。そういったところに感動しますし、奇才を感じますね。」

『繊細』というのは、役者さんに求める演技ということですか?

「『オリエント急行』って心理戦で、みんな騙して騙し合って、嘘をうまくカバーしようとしているんです。本来の感情を隠して全然違うことをしている人たちだから、すごく難しいんですよね。その心の揺れや、嘘をついていてバレないようにするとか。最後のどんでん返しをするには、それが本当だと思ってやらないと面白くないし、心の揺れが出ないと面白くないので、そのさじ加減がすごく難しいんですよね」

河原さんとはセットや衣裳のところまで話し合って作り上げているんでしょうか。

「河原チームがいるので、河原さんがどういう世界観を作り上げていきたいのか熟知されていて、そこにフィットするような提案を持ってきてくださるんですね。それが想像を超えることもあって。ひとつ装置でいうと、河原さんが『オリエント急行』をやるとなった時から舞台装置について、「何か動いているものがほしい」とずっと仰っていて。動かないから。列車が・・だからネジ?歯車・・ 」

あ、昨年は、すごく大きな歯車が舞台装置でありましたよね。

「そう。大きな歯車。それが動くんですよね、回転式で。列車が動く時とか、ポアロが推理している時に。そういうものを取り入れたりするのがすごくお上手で。予算はかかるけど、私も観たいな、それ。って思うんですよね(笑)」

では、今年もまた見られる・・と、期待してもよろしいでしょうか。

「今年は劇場が変わるということもあり、さらにパワーアップしています」

おぉ!あのセットを見た瞬間から物語への期待感が溢れました。どのあたりがパワーアップ・・と聞きたいところですが、それはお楽しみにしておきましょう。

「『オリエント急行』は古典でクラシカルな世界観なんですけど、そのスタイルを踏襲して色合いで遊んでいる部分もあったりするんですね。アールデゴや1930年代の装飾を使っている中で、衣裳の髙木阿友子さんが、形はクラシカルだけど色合いで遊ぶと新しい世界観になるじゃないかとお話しくださって。じゃあ、装置もそこに合わせた世界観を作ろうと」

衣裳はビジュアル撮影のものと変わるんでしょうか?

「変わります。ビジュアル撮影の時はより時代背景に合った衣裳だったんですが、本番のものはそういった色遊びをしていたりと、高木さんが河原さんと一緒にすごく計算して作っている衣裳で、全部オーダーメイドなんですよ」

えっ!全員ですか?

「基本的には全員です。身体に合わせて前回作ったものを使ってフィットさせている方もいますが、でも、結構みんな作り直したりしているかな」

それもまた楽しみですね。

「衣裳もほんとに可愛いし、見てほしいです。中村まことさんが演じられるミシェルはオリエント急行の車掌さんなんですけど、制服の襟にちゃんと刺繡で「ORIENT EXPRESS」って入ってるんですよ」

えー!すごい細かい!

「すごい可愛いので、是非見てもらいたいです!」

きっと望遠鏡がないと見られないですよね(笑)。いつか写真にとってTwitterにあげてくださいよ。

「そうですね(笑)」

名探偵ポアロ×椎名桔平

今、絶賛稽古中ですが、皆さんいかがですか。

「やっぱり椎名桔平さんは成熟された大人のポアロですね。前回の小西遼生さんのキレのいい、でも揺れ動きながら、「正義とは何か」と悩むポアロもすごく素敵だったんですが、今回のポアロさんは、楽しみながら推理を進めていたり―」

ちょっと原作に近いポアロのキャラクターなんですかね。

「そうですね。近いですけど、やっぱり椎名さんのポアロで、奥行きがあって一つ一つの動作にすごく雰囲気があるし、椎名さんだから出せる雰囲気が、今まで世間的あったポアロさんのイメージから椎名さんのポアロさんになっているので、それがすごく嬉しいなと思います。イギリスの名優デイビッド・スーシェが長年BBCで演じたポアロがすごく面白いんですよ。やっぱり。面白いんだけど、それをなぞっても私たちがやる意味はないし、せっかくやるんだったら新しいポアロ像を作っていきたいなと思って。」

河原さんが椎名さんのイメージに寄せた演出をされているんでしょうか?

「そうですね、前回と年齢が違うこともあって椎名さんに合わせた演出をしています。今回は、ちょっと余裕があって、お茶目で可愛らしいポアロさんなんですよね。事件が起きたことをちょっと楽しんでいるところもあって。あと、ちょっと変わってる?ポアロさん。天才過ぎて変わってる人っているじゃないですか。そういうキャラクター作りが出来たらいいんじゃないって話をしていて。人がよくわからないツボで笑うとか(笑)。」

今のお話しを聞いて、ドラマ『相棒』の杉下右京さんがチラつきました(笑)

「私も今、デイビッド・スーシェのポアロを見ていて、右京さんって日本版のポアロなんだなって思って(笑)。」

たしかに(笑)。舞台版『オリエント急行』はポアロが変わっていきますが、シリーズといったテイストでずっと続けられたらいいなと思う作品ですよね。

「そうですね。河原さんも、普遍的なものって変わらない良さがあるから、キャストが変わったらまた新しい作品になる。それが古典の良さだと仰っていて。だからこうやってずっと続けていけるような作品になればいいなと思いますし、『オリエント急行』は人間ドラマのお話なので色あせないんですよね。それって人間が根本的に持っている感情だから。アガサ・クリスティーが作家デビューをして今年で100周年なんですが、100年経っても色あせないというのは、そういう人間の根本的な感情だったり、ドラマを描いているからかなと思います」

個性豊かな乗客たち全員が主役

では、昨年より続投の室龍太さんですが、河原さんとの関係に微笑ましさを感じるところもありますがー。

「そうですね。稽古となると厳しい言葉も飛びますが、河原さんが室さんに掛ける言葉には、演劇を仕事にしていくという愛を感じますね。室さんはすごく努力家ですし、人として魅力的ですよね。稽古場でも皆さんから慕われていますね。」

たしかに。愛されキャラでもありますね。

「マックイーンに対しては、他のキャラクターが少し抑え目なので、マックイーンだけは空気を変えて、すごく場違いな明るさでいてほしいみたいなんです。それが全体のエッセンスになるというか。一人一人のキャラクターの肉付けがあるんですよね」

キャラクターと言えば、今回も個性豊かな面々が揃っていますよね。

「ほんとにお上手な方々が揃っていて。劇団☆新感線の粟根まことさんや阿佐ヶ谷スパイダースの中村まことさん、大人計画の宍戸美和子さんとかそれこそ奇才ですよね。ちなみに、中村まことさんは鉄道オタクなんですよ(笑)。だからほんとに車掌さんっぽくやっているんです。話し方とか(笑)。ホームで旗を振るシーンでは、反対側のホームの人に旗を振っているんですけど、雪がすごく降ってるから大きく(旗を)振るとか」

自分の中で細かい設定があるんですね(笑)

「そう(笑)。だから毎回中村さんを見ちゃう(笑)。中村さんの鉄道愛が役に生きているので是非、見てもらいたいです(笑)。」

ほんとに乗客全ての方に個性がありますね。

「私の中でミステリー作品って、全員が主役という感じがするんですよね。もちろん、ポアロさんという絶大的なポジションの方がいるんですけど、他の誰にスポットが当たってもおかしくない。だからいろんな人に目を向けて観てほしいです」

本仮屋ユイカさんは、私の中でギャップがとても魅力的でした。

「本仮屋さんは、すごく頭の回転が速くて天真爛漫で。本仮屋さんという人がなんて素敵な方なんだろうと思います。決断力がありますし、そういったところは、メアリーの大胆さとか勇敢さに共通する部分もあるのかなと。頭の良い女性でありながら、すごくアクションが早いんですよね、メアリーって。すごく頼もしいんですけど、何か追いかけたくなるような」

まさに天真爛漫な感じですね。では、松井玲奈さんは?

「松井さんは、細部まで掘り下げて役を内面から出そうとしているんだなと思います。松井さんが持っている透明感というのはすごく重要だと思うんですよね、この作品にとって」

松井さんの透明感が舞台でどう放たれるのか楽しみですね。高橋恵子さんはビジュアル撮影の時の佇まいが本当に素敵でした。

「高橋さんは私の大好きな女優さんなんです。一度稽古場に行く前に後姿をお見かけしたんですけど、そこがニューヨークなんじゃないかというくらい、画になりすぎてお綺麗でした。というプチ情報(笑)。」

あはは(笑)。それは普段から纏っている空気感が違うんですかね。

「もう、すごく素敵な女優さんですごくお優しいんですよ。人生の先輩としてこうありたいなと思わせていただける方です。マルシアさんは、マルシアさんにしか出せない情念があると思います。それは、歌手として歌を表現してきたという部分と、今のマルシアさんが持っている情熱が合わさったものだと思います。松尾さんも素敵な俳優さんですよね。今回のブークはポアロさんに振り回されがちな可愛らしい重役さんです。」

そんな魅力溢れるキャストで送る2020年版の『オリエント急行殺人事件』の見どころと三浦さんの想いをお伺いさせてください。

「今回のポアロさんは、椎名桔平さんの大人でお茶目でダンディなポアロさんになると思うので、楽しみにしていただきたいなと思うのと、登場人物一人一人に人間ドラマや伏線があるので、犯人を知っていても、是非一人一人にスポットを当てて見ていただけたらと思います。そして、2020年は、ほんとにたくさんいろんなことがあったので、少しでも華やかな空間で今年の締め括りをいただけたら嬉しいです。是非、ご乗車ください」

三浦さん、ありがとうございました!

所々で、三浦さんが「ポアロさん」とさん付けされていることに、作品とキャラクターと椎名桔平さんに対する敬意と敬愛を感じました。そして、再演ではなく、常に新しいものを作り届けるため、100%を超えて150%の気持ちで覚悟決めて頑張っている。と、インタビューが終わった後仰っていました。こだわりを形にすると世界観に厚みが増します。そしてまた予算にも厚みが増してきます。それでも、エンタテインメントとして、この『オリエント急行殺人事件』の世界観を堪能してもらいたいという思いが、こだわりを貫くことを選択したのだと思いました。是非、たくさんの思いを乗せた、豪華オリエント急行の旅をご満喫いただきたい。


【公演概要】
「オリエント急行殺人事件」
【出演】 椎名桔平 / 松井玲奈 松尾諭 室龍太(関西ジャニーズJr.)本仮屋ユイカ 粟根まこと 宍戸美和公 中村まこと マルシア 高橋惠子
【スタッフ】 演出:河原雅彦
Agatha Christie MURDER ON THE ORIENT EXPRESS
Adapted for the stage by Ken Ludwig
【日時・会場】 2020年12月8日(火)~12月27日(日) Bunkamuraシアターコクーン
【チケット一般発売日】 好評発売中!
【席種】 S席 11,500円(税込)/ A席 8,500円(税込) / コクーンシート 5,500円(税込) ※コクーンシートは一部演出で出演者や映像が見えにくいお席となります。 ※ご購入後の返金・クレーム及びお席の振替は一切お受けできません。予めご了承ください。
【お問合せ】 サンライズプロモーション東京0570-00-3337(平日12:00~15:00)
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