舞台『パークビューライフ』舞台を生み出す立役者 クリエイターに迫る
ちょっと、ここだけバナシ。
舞台「パークビューライフ」
演出 田村孝裕さん 編
カフェで話しているようなリラックスした雰囲気で、作品に携わるクリエイターの方々に話を聞かせてもらう、“ちょっとここだけバナシ。“
今回のプラスな話を届けてくれるのは、4月7日より開幕する舞台「パークビューライフ」の演出を務める田村孝裕さん。2019年秋に上演された舞台「不機嫌な女神たち プラス1」(以下、不機嫌な女神)で実現した、脚本・岡田惠和さんとのタッグに、風間俊介さん、倉科カナさん、中川翔子さん、前田亜季さんという個性豊かで演技派の俳優陣が集結。
インタビューを通して、このコロナ禍で観に来てくださった方の心に残るなにかを提供したいという田村さんの思いを強く感じ、岡田さんの書かれる言葉が田村さんのもとで、どんな世界が描かれるのか。一層楽しみになりました。そして田村さんから見るキャストそれぞれの印象についても語っていただきましたのでぜひ、ご覧ください。
台本を読み終わって、まず感じられたことは?
岡田(惠和)さんの言葉をお借りするなら“多幸感”ということかなと。ざっくり言ってしまえば、「辛い苦しい悲しい」の部分はほんのちょっぴりで、それを抱えつつ、「明るく元気に前向きに生きている人たち」というところに、岡田さんの興味があるのかなと思って、直接岡田さんにお話しさせていただきました。そのときに、「不機嫌な女神のときと違うのは年齢が若いから」と、仰っていたんです。「これからの人たちだから」「だからそういうふうな台本になったのかもしれない」と。また、「どこにでもいそうな人たちにスポットを当てる作品にしたい」とも、始まる前から仰っていました。それを僕自身が台本を読ませていただいて、感じたことを演出で申し上げているというか。女性3人の関係性で言えば、「辛い苦しい悲しい」を、ちょっと笑いで濁したり、辛いからこそ明るく振る舞ってお互いを救い合うみたいな。一緒に泣くのではなくて、肩を落としている人と笑ってあげることで一緒に持ち上がっていくというか。
私自身台本を読み終えたとき、そこには幸せしかないと思ったことが印象深かったです。
僕の中では意外とチャレンジで。根本的に映画や演劇でもそうですけど、幸せで始まってずーっとハッピーで終わることってないんですよね。どこかに挫折や苦しみが必ずあるので。ハッピーで始まってハッピーで終わるというお芝居をやれたら、僕にとって意外と初めの経験になるんじゃないかなと。
自分のよくないところですが、幸せな光景を見るとどこか「ほんとに?」と、斜めに見てしまうところがあります・・(笑)。
恐らく万人が納得するものではないのかなと。「ちょっと変ですよね」と、いうふうに受け止められるのは仕方がないと思いますし、そうあるべきだと僕自身は思っています。そういった話を、稽古中にキャストの皆さんにもさせていただきました。僕自身のお芝居のテーマで言えば、「誰かがいる」とか「寄り添ったりする」といった、「コミュニケーションって大事だよね」というところが伝わればいいなと思っています。ここに登場する人たちの選択がたまたまこうだったというだけであって。そこに対しての理解そのものは、100人のお客さまの100人が納得するものでは決してないと思いますので、納得感といった大団円ではないと思っています。
たしかに自分が実際にできるかどうかは別として、この4人の中に入っていきたいな、入っていけたら楽しだろうなというふうに思いました。
そうですね。そういうふうに思っていただけたらいいなと思います。
こういった日常生活を演出することはとても難しいように思いますが。
日常のお芝居って、お客さまの誰もが日常を経験しているので、嘘がバレやすいと思っているんですよね。なので目線の動きひとつから演出はしますが、そのときに“自意識”というものに重きを置いてやることが、いわゆる日常性ということに近いかもしれないですね。
自意識とは?
関係性のなかで、相手が自分のことをどう思うかを必ず頭の片隅に入れてやってもらうという感じ。「泣きそうになったら我慢するでしょ」っていう(笑)でもお芝居になった途端に綺麗に泣き出すところに違和感があって。あとは、他人であればあるほど自意識はどんどん過剰になっていくだろうし、近しい人であればあるほど、素の自分を見せられるようにもなっていく。日常のお芝居を演出することで気を付けていることと言えば、自意識をなるべく開放しないようにというか、役者としての自意識は開放してもらって、役としての自意識は保っていてほしい、みたいなことを言ったりしますね。
今回のように別の方が書かれた脚本を演出するときは、田村さんのなかでどのような作業をされているのでしょうか。
女性の心情だとかは、僕は男だし分かりえないことはたくさんあると思うので、関係性を示します。
今回で言うと、女性3人の関係性?
3人の立ち位置、関係性を指し示します。全ては関係性だと思っているので。今こうしてインタビューをしている自分と、家に帰って家族と喋る自分は絶対的に違う。この関係性があるからこういう喋り方をしているんですよね。家族には全然違う口の利き方をしているし、全然違う態度を取っている(笑)。そういった関係性を僕はまず第一にお示しするというところです。あと今回、稽古初日にまず役者さんたちに伝えたのは、ご自分がやる役の欠点を考えてきてください。それを抽出してちょっとピックアップしてやってください。ということは申し上げています。
なぜ欠点なのでしょうか。
なにかが欠けている人の方が、単純に僕が見ていて面白い。全てが完璧な人を見ていても、僕自身が面白味を感じないので、なにかが欠けている人が登場していることがまず第一にあって。「その欠点が分かったうえでそれを愛してくれる人たち」ということを言いたいというか。人を好きになるときに、その欠点をどこまで愛せるかということ。
たしかに、そこにドラマがあるような気もします。
成瀬のような孤独な人ってすごく自意識過剰になってしまって、ほんとに重くなってしまうというか。すごく雑多な言い方をしちゃうと、世界で一番不幸になったと錯覚してしまう。そういうときに、成瀬の話を彼女たちが聞いた瞬間に、全然感情移入してくれない、全然大したことのない話のように聞いてくれる。そういう感じに僕は救われてほしいなと思ったんです。つまり、自分がすごく考えていたことってすごくちっちゃいことだったんだということに救われてほしいなと思います。
今のお話で私が救われました(笑)。自分は4人の会話の表面だけを見ていたような気がします。そんなキャストの皆さんのバランスはとても良いですよね。
そうですね。まだお芝居のお話しかしたことがないのですが、稽古場で話している感じも役のように喋っているというか、役の役割を喋っているような気もします。
田村さんから見た皆さんの印象をお伺いしたいのですが。まずは、成瀬 洋を演じる風間俊介さん。
大人だなあって思いますね。100回くらい人間やっているんじゃないかと思います。人間100週目くらいなんじゃないかなって(笑)。お芝居の中身についても、ご自分なりの解釈を持ってくださっていて。初めての本読みのとき、フルテンションでやってくださったのもすごいなと素直に思いました。覚悟を見せていただいたというか。それはとても刺激になりましたし、そのときに風間さんが描いている成瀬像というものが一発で見えました。風間さんが構築する役の作り方みたいなものはすごく信用できるとすぐ思いましたね。
上賀玉枝を演じる倉科カナさんは?
倉科さんはすごく舞台に向いている方だと思いました。そしてコメディエンヌになってほしいなというか、なれる方なんじゃないかなと思いましたね。玉枝という役が振り切らないとできない役だとご自身でもわかってらっしゃいますし、僕自身もそういうオーダーをしています。ご本人がすごく明るい太陽のような感じの方なので、玉枝の性質と合っているのかもしれないですね。またこうすれば面白くなるというビジョンが見えているので、倉科さんは今後も舞台に立ってほしいと思う役者さんですね。
では、上賀香苗を演じる中川翔子さんは?
中川さんはすごくすごくクレバーな方。今、役と自分との差異をどうつけるかをすごく考えてらっしゃって。そういう考え方をする役者さんはあんまりいないんじゃないかなと思うんですけど、香苗としてどう見てもらうかを模索している姿に、ああやっぱりすごくクレバーな方だなと思います。中川さんがスイッチ入った瞬間ってすごく面白いんですよ。ライブ感覚に長けている方だと思うので、そこが本番でどうなるのかがすごく楽しみですね。中川さんの腹の中に落ちてご自分が能動的に動き出したときに、あの役は爆発するんだろうなと思っています。
最後に、上賀 望を演じる前田亜季さんは?
今回の芝居の要だと僕は思っているんですよね。前田さんがリーダーになって、場の空気を変えたり作ったり促したりみんなを率いたりしなければならないから。そういう意味でいうと、前田さん自身にそういった素養がないらしいんですよ(笑)。「どちらかと言えば香苗タイプです」と、仰っていて。前田さんの素養にないものを僕がオーダーをしているから、そこにご苦労されているという気はしますが、間違いなくお芝居の上手な方ですので、それがハマったときの前田さんはいいですよ。前田さんも嘘のつけない芝居をするというか、嘘事を嘘事にしない筋道を通ってやってくださっているので、すごく信頼していますね。
早くこの4人で繰り広げられる会話劇を観たい気持ちに駆られました。では最後に、観てくださる方にどんな思いを届けたいですか。
とにかく、幸せ感みたいなものをお客さまに届けられたらいいなと思っています。こういうご時世なので、彼女たちのように心の栄養や幸せをもらって帰ることはたくさんあると思いますので、そういう作品に仕上がったらいいなと思います。そして僕は、世の中には演劇が必要だと思っていますので、そこがなにか響けばいいなと思います。「不要不急じゃないぞ、演劇は!」「意外と心の栄養になるんだぞ、演劇は!」(笑)と思いながらどんなときでも僕はやり続けるし、やっていきたいなと思っています。
田村さん、ありがとうございました!
田村さんのインタビューのあと、「誰もが笑顔の裏で闘っている」。そんなことを思いながら帰路につきました。今のようなコロナ禍で、当たり前だった日常が失われ、普段の何気ない日常が本当にありがたいことだったのだと改めて感じます。今は、コロナ後の「高く飛ぶための準備期間」として、低く屈んでいる状態なのだと思いながらも、それでも「辛い苦しい悲しい」と思うことはたくさんあって。この作品が、そんなわたしたちの道を照らす一筋の光になってくれたらいいなと、そして劇場をあとにしたみなさまの心に幸せをもたらしてくれる、心の栄養剤となってくれることを願っています。
田村孝裕
1976年4月8日生まれ、東京都出身。
97年、劇団「ONEOR8」を旗揚げ。劇団公演全作品の作・演出を務める。近年の主な作品に『ちょっと今から仕事やめてくる』(脚本)、『サザエさん』(作・演出)『不機嫌な女神たちプラス1』(演出)、ONEOR8『誕生の日』(作・演出)などがある。
公演概要
「パークビューライフ」
【出演】風間俊介 倉科カナ 中川翔子 前田亜季
【作】岡田惠和
【演出】田村孝裕
【日時・会場】
<東京公演>2021年4月7日(水)~4月18日(日)世田谷パブリックシアター
<大阪公演>2021年4月23日(金)~4月25日(日)サンケイホールブリーゼ
<名古屋公演> 2021年5月1日(土)~5月2日(日)ウインクあいち 大ホール
【チケット料金】S席 9,500円(税込)/A席 8,000円(税込)※未就学児童入場不可
【お問合せ】
東京公演:公演事務局 event@user-support.jp (平日10:00~17:00)
大阪公演:キョードーインフォメーション:0570-200-888(平日・土曜11:00~16:00)
愛知公演:中京テレビ事業:052-588-4477(平日11:00~17:00)
【公式HP】https://parkviewlife.jp/
【公式twitter】@park_view_life