柄本時生らが神奈川から生み出す演劇の新しい形。KAATカナガワ・ツアー・プロジェクト第一弾『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』間もなく上演!
KAATカナガワ・ツアー・プロジェクト第一弾『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』が、2月8日(火)よりKAAT神奈川芸術劇場<中スタジオ>を皮切りに上演される。
2021年度より同劇場は、芸術監督・長塚圭史のもと、シーズン制を導入。春から夏をプレシーズン、秋からをメインシーズンと位置づけ、1年目のシーズンテーマは「冒」(ぼう)。「飛び出す、はみ出す、突き進む」を合言葉に、未知なる世界へと踏み出す勇気、既成概念を打ち壊す芸術の原点を模索する。そのシーズンの掉尾を飾るのが、芸術監督就任後、長塚の初の書下ろしとなる古典の名作『西遊記』から着想を得た本作だ。また長塚からの信頼も厚い大澤遊が共同演出として参加し、さらに、自身の声や打楽器、言葉を用いて自由かつ繊細な音楽を奏でる角銅真実が作品に彩りを添える。そして個性豊かで魅力的な出演者が集うのも見どころ。柄本時生、菅原永二、成河、佐々木春香、演出も務める長塚圭史といった豪華な俳優が揃う。
本作をひっさげカンパニーは、<ひらかれた劇場>を目指し、より多くの神奈川県民だけでなく、劇場に足を運んだことのない人々と出会うために、神奈川県内6都市を巡演する。
そんな舞台で、三蔵法師を演じる柄本時生が本作の魅力を語ってくれた。
――演劇の新しい形を模索するKAATカナガワ・ツアー・プロジェクト。その第一弾となる『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』に出演が決まった時のお気持ちを聞かせてください。
本作の上演台本・演出の(長塚)圭史さんとは、大林宣彦監督の大林ワールドを存分に堪能できる映画『花筐/HANAGATAMI』(2017年)でご一緒させてもらいました。その時は、ふたりとも演じる側でしたが、今回は演出家として圭史さんの演出する舞台に呼んでいただき嬉しかったです。今作はKAAT発の新しいプロジェクトですが、お芝居をお客様にご覧になっていただくのは変わらないので、これからの稽古をしっかりこなして、いつの日か皆様にこれまでにない舞台になったと言われるように頑張りたいです。
――脚本は現代の神奈川を舞台に、SNSを使いこなし、神奈川県の地元の時事ネタなどが入っていたり、古典の『西遊記』を基にしながらも非常に面白い作劇ですね。
脚本を読んで稽古をするとわかるのですが、僕がこれまで出演してきた作品の中でも発したことのない難しい台詞が散りばめられています。難しいといっても、圭史さんの書かれた台詞は、どなたにでもわかる平易な言葉ですが、俳優が説得力を持たせて喋るにはとてつもなく困難だと感じています。というのも、今作の台詞は、小学生の男の子や女の子たちが集まって自然に語り合うような親密感のある言葉で成り立っているからです。お芝居を作っている僕らのような大人がそういった言葉を喋ると、大人のエゴというか作為が垣間見えて、かえって脚本の本質が伝わりにくくなってしまう。もちろん、お芝居ありきで書かれている言葉だからこそ、大人たちが台詞を言えば演技になっていくのですが、今回の脚本は演劇のために書かれた言葉だけで成立しているわけではなくて。なので、僕らはどうやって小学生の子供たちが発するようなありふれた言葉を台詞にして、きちんとお芝居としてお客様にお見せするのか……そんなことを考えながら日々稽古を続けています。
――長塚さんと大澤さんというおふたりの演出家がどういったケミストリーで演出するのか楽しみです。
おふたりはとても信頼し合っているのが稽古場にいるとわかります。共同演出とはいえ、お互い独立した演出家ですから、意見の相違が出てくる時もありますが、おふたりが歩み寄って着地点を見出すプロセスを見ていると、その瞬間に新しいお芝居が生まれるような気がして面白いですね。圭史さんと大澤さんの意見を聞いて自分の脳を働かせていると根本ではおふたりの意図していることが繋がっていると感じられるし、相性の良さがうかがえます。
――カンパニーの雰囲気はいかがでしょう。
ピリピリすることなく楽しい稽古場です。みんなで誰ひとり取り残されることがないように助け合いながら稽古をしています。今作は歌うシーンがあるのですが、歌い方に悩んでいても、みんなが手助けをして支え合って稽古ができる。面識があった成河さんに限らず、初めてご一緒する方からも演劇が好きだという空気も伝わってきて皆さん頼もしいです。僕はどの稽古場でも普段から、普通の佇まいでいることに気をつけて、周りに迷惑をかけず、絶対に嫌なことを言わないように心がけているのですが、それが自然体でできるところに今回のカンパニーの雰囲気の良さがあると思います。
――三蔵法師はどんな役だと思いますか。
圭史さんから、詩的で芝居がかった日本酒好きの人物とおっしゃられたので、これからの稽古で今回の三蔵法師のイメージに近づきたいです。無理に役作りをしようと考えずに、台詞を発しながら稽古を続けてきちんと役を作っていきたいと思います。
――今作の面白いところは、旅公演はすべて神奈川県内で上演され、普段の舞台の旅公演とはまた違った印象を受けます。
旅公演はいろんな土地に行くことができるので好きなんです。僕は喫茶店が大好きで、旅先で新しい喫茶店を見つけることが楽しみで(笑)。今回であれば、地元密着型の演劇で、旅一座にいるような親近感を味わうことができそうなので、今から幕が開くのが待ち遠しいです。
――柄本さんは映像作品から舞台まで幅広く出演されていますが、舞台の魅力はどんなところにあると思いますか。
舞台は他人に見られる怖さを俳優が再確認する場所です。たとえば、映画の現場のスタッフの方は俳優の味方なので、何をするにせよ僕たちを優先して待ってくれるし、許容してくれる。舞台は、お客様あってこそで、皆様の前で下手なお芝居をすることに怖さを覚えますが、それをどのようにして乗り越えるのかを考えることにやりがいを感じます。
――デビュー以来、これまで様々な作品にチャレンジしてきましたが、俳優として大切にされていることはありますか。
気を張らず常にフラットな状態でいるように心がけ、現場でしっかりと自分の意見や状況を説明できるように、そして本音をきちんと丁寧に伝えることを意識しています。
――柄本さんが俳優を続けられる原動力はありますか。
まずは、オファーをいただいて演じることができるという僕にとっての“経済”が循環している間は俳優を続けていきたいと思っています。新しいお仕事をいただいた時に、「この作品はどうやって演じよう?」と考えることも好きなので、これまでの僕は、お仕事の機会をいただいて、そこから俳優として何を得られるのか熟考して、それらが繋がりあって今に至ったと思っています。これからもお仕事があればなんでも頑張るというスタンスは変わらないと思いますが、欲を言えば、最近はテレビドラマや舞台で忙しかったから、映画のお仕事をしたいかな(笑)。
――(笑)。今作の見どころはどんなところにあると思いますか。
今回のツアー・プロジェクトからは、演劇を間近に感じてもらおうとするKAATの意志を強く感じます。舞台をご覧になった多くの方が「自分たちだって演劇ができる」と挑戦心をくすぐられるような作品になると思うので、そこが見どころだと思います。
――それでは、最後にお客様にメッセージをお願いいたします。
舞台の楽しさを身近に感じられる作品だし、チケットもお手頃なので俳優の僕には、そんな心意気も嬉しいですし、どなたでも気軽にご覧になっていただける作品だと思います。そうして今作をご覧になった方が、お芝居に挑戦してみたいとか、何かしら新たなチャレンジをしたいと心に抱いていただければ幸いです。
■プロフィール
柄本時生(えもと・ときお)
1989年10月17日、東京都生まれ。2003年、映画Jam Films S『すべり台』(2005年公開)のオーディションに合格し、俳優デビュー。2008年の出演作品により第2回松本CINEMAセレクト・アワード最優秀俳優賞を受賞。唯一無二の存在感を放つ俳優として、舞台、映画、テレビドラマと幅広く活躍している。主な出演舞台に『ジョンとジョー』、『ゴド―を待ちながら』、『そして誰もいなくなった』、『関数ドミノ』、『心臓が濡れる』、『泣くロミオと怒るジュリエット』、『物語なき、この世界。』などがある。
取材・文 / 竹下力
公演概要
KAATカナガワ・ツアー・プロジェクト第一弾
『冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~』
【出演】
三蔵法師 役:柄本時生
孫悟空 役:菅原永二
馬(玉龍)役:佐々木春香
沙悟浄 役:長塚圭史
県内の人々・神々・妖怪ども 役:成河
【上演台本・演出】長塚圭史(原作:呉承恩『西遊記』)
【共同演出】大澤遊
【音楽・演奏】角銅真実
【企画製作】KAAT神奈川芸術劇場
【主催】KAAT神奈川芸術劇場[横浜公演、川崎公演、相模原公演、横須賀公演]/やまとみらい(大和市文化創造拠点等 指定管理者)[大和公演]/(公財)厚木市文化振興財団[厚木公演]/小田原市・小田原市民ホール開館記念事業実行委員会[小田原公演]
【共催】川崎市アートセンター[川崎公演]/(公財)相模原市民文化財団[相模原公演]/(公財)横須賀芸術文化財団[横須賀公演]
【日程】
<横浜公演>2022年2月8日(火)〜16日(水)KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ
<川崎公演>2022年2月19日(土)〜20日(日)川崎市アートセンター アルテリオ小劇場
<相模原公演>2022年2月23日(水・祝)杜のホールはしもと ホール※杜のホールはしもと開館20周年記念事業
<大和公演>2022年2月26日(土)〜2月27日(日)大和市文化創造拠点シリウス1階 芸術文化ホール メインホール
<厚木公演>2022年3月4日(金)〜5日(土)厚木市文化会館 小ホール
<小田原公演>2022年3月12日(土)〜13日(日)小田原三の丸ホール 小ホール※小田原市民ホール開館記念事業
<横須賀公演>2022年3月19日(土)ヨコスカ・ベイサイド・ポケット
【チケット料金】※全て税込み価格
<横浜・川崎・相模原・横須賀公演>一般 4,800円/U24チケット(24歳以下) 2,400円/高校生以下割引 1,000円/シルバー割引(満65歳以上) 4,300円
<大和公演>大人 4,000円/子ども(4歳~中学生) 2,000円
<厚木公演>一般4,000 円/高校生以下 2,000円
<小田原公演>一般 3,800円/U25(25歳以下) 2,500円/U18(18歳以下) 1,000円
【お問合せ】
横浜・川崎・相模原・横須賀公演:チケットかながわ:0570-015-415(10:00~18:00)
大和公演:やまと芸術文化ホール チケットデスク:046-263-3806(9:00~18:00、休館日を除く)
厚木公演:厚木市文化会館 チケット予約センター:046-224-9999(10:00~17:00、休館日を除く)
小田原公演:小田原三の丸ホール:0465-20-4152(9:00~22:00、休館日を除く)
【公式HP】https://www.kaat.jp/d/bokenshatachi
【公式twitter】@kaatjp