ミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』が描く“愛”の大切さ。歴史ある作品に初参戦する内海啓貴が誓う俳優としての飛躍。
1985年の日本初演以来、30年以上に渡って日本の多くのファンに愛され続けているブロードウェイ・ミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』が、3月8日(火)より東京の日生劇場を皮切りに上演される。1993年から“ザザ”ことアルバン役を市村正親が務め、2008年からはザザのパートーナーのジョルジュ役に市村の盟友である鹿賀丈史を迎え、相性抜群の“最強コンビ”が贈る、愛の本質を描くハッピーなバイブスに溢れたミュージカル。
そんな本作で、ゲイカップルであるジョルジュとザザの息子のジャン・ミッシェル役を内海啓貴が演じる。ミュージカル『アナスタシア』、『GREASE』などでの好演も記憶に新しい彼に、今作への意気込み、ミュージカルへの熱い想いを聞いた。
――日本で30年以上に渡って多くの方に愛される本作への出演が決まった時のお気持ちを聞かせてください。
出演が決まった時は率直に嬉しかったです。それと同時に背筋をピンと張るほど緊張しました。多くの方に長い間愛されている作品に初めて出演するプレッシャーは感じましたが、考えてみれば僕の好きなハッピーな気分になれるミュージカルですし、実際に稽古をするようになると、早くお客様の前で上演したいという楽しみな気持ちになりました。
――脚本を読んだ感想はいかがでしょう。
今まで何度も読み返しているのですが、“愛”の本質を描いた感動的な脚本だと思います。僕が演じるジャン・ミッシェルが恋人のアンヌを恋する気持ち、同性愛や家族愛といったさまざまな形の愛が肯定的に捉えられています。そんな多様な愛を美しく描いた歌詞も見事だし、脚本を読んでいると、人間が持つ愛の大切さが理解できます。僕自身は、登場人物たちが紡ぐ家族愛に惹かれて、自分の両親、おじいちゃん、おばあちゃんに近いうちに会いたいと感じさせてくれたので、お客様も何かを感じ取っていただけるはずですし、改めて自分にとって大切な存在に気づかされました。
――すでに稽古が始まっていますね。
ダンスの振付けをしたり、お芝居の段取りをつけたりしながら、本読みをこなしている段階ですが、初参戦の僕以外のキャストやスタッフの方達は何年もこの作品に携わられて、すでにチームができあがっている状態で、何をトライしても皆さんが優しく包み込んでくれる包容力のある稽古場です。
――おっしゃるように、内海さんにとって歴史ある作品のカンパニーに初参加となります。
このカンパニーに入って最初に驚いたのは、ナイトクラブ「ラ・カージュ・オ・フォール」のショーの出演者である可憐なダンサーたちを“カジェル”と呼ぶのですが、その方達の声や踊りの凄さに圧倒されたことですね。長年にわたってこの作品の演出を務める山田和也さんもたくさんのアドバイスを的確にしてくださるし、鹿賀さんや市村さんを含め、みなさんが素敵な環境を作ってこられた座組みに加わることができてありがたい気持ちでいっぱいです。だからこそ、初参加の僕が、みなさんの作品に対する熱い想いに応えるためには、これまでにない新しい風をカンパニーに吹かせることだと思って、楽しみながら稽古をしています。
――ここまでの稽古を経て、ジャン・ミッシェルは、どんな役だと思いましたか。
ジャン・ミッシェルは、「ラ・カージュ・オ・フォール」というクラブのオーナーであるジョルジュと彼のパートーナーで同クラブの看板スターであるザザの愛情をいっぱい注がれて育てられたひとり息子です。それだけではなくて、稽古をしていると、クラブに出入りするカジェルの人たちからも愛情を受けて育ってきたことを感じます。幼少期からたくさんの人たちに愛され続けた素直な性格の男の子ですが、今作は彼が初めて人を愛する経験をして成長していく物語でもあります。ジャン・ミッシェルはこの舞台の核になる役なので、彼を演じることで俳優としての僕自身も、彼が大人の階段を駆け上がっていくようにステップアップできれば嬉しいです。
――どのように役を作っていこうと考えていますか。
ジャン・ミッシェルの環境は僕の幼少期と似ているんです。僕の祖父母はスナックを経営していたので、子供の頃の僕はそこに通うお客様と仲良くなったりしました。それこそお正月になるとお年玉をいただいたり(笑)、誰とでも分け隔てなく仲良くなれる社交的な部分が彼と似ている気がします。演出の山田さんは、僕の経験を活かして、“現代っ子っぽい役”にしようとおっしゃってくれたので、演じることに不安もなくて、これから本番までに僕なりのジャン・ミッシェルを作り上げたいです。
――今作は名曲揃いですが、お気に入りのナンバーはありますか。
僕がソロで歌う『アンヌと腕を』も大好きですが、最も印象に残ったのは『今この時』です。ちょうどコロナ禍に作品の歌を聴いたのですが、「いま、この時」を愛して一瞬一瞬を大切にして生きていこうという曲のテーマが現代とリンクしていて勇気をいただきました。この曲は人の背中を押してくれるパワーがあって、今でも続く辛い状況下だからこそお客様の胸にも強く響くと思います。
――内海さんは、若くしてさまざまなミュージカル作品に出演していますが、今作の特徴はありますか。
社交ダンスで使われるふんわりしたムードの中にリズムが刻まれている昔ながらの曲調が多くて、現代のミュージカルとは違った雰囲気がありますが、僕自身の音楽のルーツは、先ほどもお話ししたように、祖父母の経営していたスナックに流れていた昔のムード歌謡やジャズだったりしたので、僕にとっては歌いやすくて歌っていて心地よいです。
――ちなみに私は、内海さんのお芝居や歌にはいつも透明感があるような気がしていたのですが、内海さんなりに考えるご自身のお芝居や歌に対する強みがあればお聞かせください。
ありがとうございます。僕はずっと自分の声がコンプレックスでした。地声が高くて、ミュージカルを始めた当初は、他の共演者の方がバリトンを効かせた渋い声を響かせる中でどうやって僕なりの歌を歌っていくのか考え続けて。そこからボイトレや歌のレッスンを重ねていくと次第に芯のある声になってある時、「ミュージカル界の中では異質の声だね」と認められるようになったんです。決定的だったのは、ミュージカル『アナスタシア』(2020年)に出演した時に、ブロードウェイのクリエイティブチームの方々に僕の声を褒めていただいたことが大きな自信になりました。そうすると、この声でもミュージカルの世界で戦っていけるという想いが強くなって、お芝居もまっすぐにブレなくなりました。僕のお芝居や歌の特徴は、もともと僕自身が感じていたコンプレックスにあって、それを跳ね返して強みに変えた時、僕ならではの表現を獲得できたと思っています。
――初舞台からここまでご自身の俳優人生を振り返ってみるといかがでしょう。
今が俳優人生の中で一番楽しいんです(笑)。10代の頃はどうして俳優をしているのかわからなくて、路上ライブをしたり試行錯誤しながら悪戦苦闘の日々を過ごしていて。そうしてミュージカルの世界に飛び込んでみると、こんな心が躍るエンターテインメントの世界があるんだと驚いて、歌を歌って、お芝居をすることがだんだん楽しいと思えるようになりました。コンプレックスが自信に変わった出来事を経て、歌やお芝居がさらに楽しいと感じるようになって、このミュージカルにはダンスも必要なら、そのためにはどうすればいいのかといった目標が明確になって、俳優として成長することができました。振り返るとデビューからこれまでは、僕がきちんとお芝居や歌ができる俳優になるために必要な“核”が心に出来上がった時期でした。
――これからの展望はいかがですか。
今は20代でしか演じられない役を懸命に演じていますが、それを続けて30代に突入していけば、きっと新しい自分を発見できるような気がします。常に考えているのは30代に向けてどういう風に、残りの20代を過ごすのかということ。俳優として地に足がついて、もっと深みのあるお芝居ができるようになりたいです。
――俳優として大切にされていることはありますか。
昔の僕であれば、あの頃は無駄だと思えることが、現在の僕からするとそれが無駄ではなかったと気づくようになりました。遠回りしてどんな困難に直面しても負けずに強くなろうと思っていたというか。そういった想いの積み重ねが僕の初心になって、そのおかげでどの現場でもしたたかにお芝居ができる気がするし、そんな気持ちを忘れないようにこれからも俳優を続けていきたいと思っています。
――それでは、最後にお客様にメッセージをお願いいたします。
『ラ・カージュ・オ・フォール』はいろいろな形の愛が混ざり合い、たくさんの色彩を帯びながら、ひとつの世界に存在する素晴らしさを高らかに歌い上げて、お客様を幸せな気持ちにさせてくれる清々しいミュージカルです。長い歴史を積み上げてきた作品なので、先輩の胸を借りながら、僕にしかできない新しいジャン・ミッシェルを演じて舞台の上でしっかり生きたいと思いますので公演を楽しみにしてください。
内海啓貴(うつみ・あきよし)
1995年1月16日生まれ、神奈川県出身。NHK Eテレ『Rの法則』にレギュラー出演を果たしながら、映画、テレビドラマ、舞台など幅広く活躍を続けている。主な出演舞台にミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン、ミュージカル『黒執事』-Tango on the Campania-、『Like A』room[003]、ミュージカル『アナスタシア』、ミュージカル『GREASE』などがある。
取材・文 / 竹下力
公演概要
ミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』
【出演】
ジョルジュ役:鹿賀丈史
ザザことアルバン役:市村正親
ジャン・ミッシェル役:内海啓貴
アンヌ役:小南満佑子
ハンナ役:真島茂樹
ジャクリーヌ役:香寿たつき
エドワール・ダンドン役:今井清隆
マリー・ダンドン役:森公美子
花井貴佑介
林アキラ
日比野啓一
園山晴子
附田政信
佐々木誠
高木裕和
松谷嵐
渡辺崇人
榎本成志
丸山泰右
鯨井未呼斗
齋藤信吾
佐野隼平
澤村亮
島田連矢
瀬沼真幸
出口栄一
中川賢
山科諒馬
りんたろう
岡久直哉
中島祐太
髙橋桂
多岐川装子
浅野実奈子
篠崎未伶雅
【作詞・作曲】ジェリー・ハーマン
【脚本】ハーヴェイ・ファイアスタイン
【原作】ジャン・ポワレ
【翻訳】丹野郁弓
【訳詞】岩谷時子、滝弘太郎、青井陽治
【演出】山田和也
【オリジナル振付】スコット・サーモン
【主催・企画製作】東宝/ホリプロ
<東京公演>2022年3月8日(火)~30日(水)日生劇場
<愛知公演>2022年4月9日(土)~10日(日)愛知県芸術劇場大ホール
<富山公演>2022年4月16日(土)~17日(日)オーバード・ホール
<福岡公演>2022年4月22日(金)~25日(月)博多座
<大阪公演>2022年4月29日(金・祝)~5月1日(日)梅田芸術劇場メインホール
<埼玉公演>2022年5月7日(土)~8日(日)ウェスタ川越 大ホール
【チケット料金】※全て税込み価格 ※未就学児童入場不可
東京公演:S席 14,000円/A席 9,000円/B席 4,500円
愛知公演:S席 14,000円/A席 11,000円/B席 8,000円
富山公演:S席 14,000円/A席 9,500円/B席 6,000円/U-25(引換券) 4,000円/車椅子席 14,000円
福岡公演:A席 14,500円/B席 9,500円/C席 5,000円
大阪公演:S席 14,000円/A席 9,000円/B席 5,000円/U-25チケット 8,500円
埼玉公演:S席 13,500円/A席 8,500円/B席 3,500円
【お問合せ】
東京公演:ホリプロチケットセンター:03-3490-4949
愛知公演:キョードー東海:052-972-7466
富山公演:北日本新聞社事業部:076-445-3355
福岡公演:博多座電話予約センター:092-263-5555
大阪公演:梅田芸術劇場:06-6377-3800
埼玉公演:ウェスタ川越:049-249-3777
【公式HP】https://www.tohostage.com/lacage/index.html
【公式twitter】@lacageJP